CT Lab

第34章 定量化とラジオミクス

本章では、ROI・VOI の一次統計、テクスチャ、形状特徴と、ラジオミクスによる定量化を扱います。

画像処理編の最後は定量化です。切り出した関心領域(ROI, 2 次元)や体積領域(VOI, 3 次元)から特徴量を取り出して数値にし、診断・予後・治療効果の判断につなげます。目で見た印象を再現可能な数値に変えることが、この処理の目的です。

一次統計とヒストグラム特徴

もっとも基本的なのは、ROI 内の画素値そのものの統計です。平均 CT 値は組織の種類や造影の程度を、標準偏差やエントロピーは内部の不均一さ(heterogeneity)を表します。腫瘍の内部がまだらであるほど、標準偏差やヒストグラムのエントロピーは大きくなります。歪度や尖度は、ヒストグラムの形の非対称性やとがり具合を捉えます。これらはヒストグラムだけから決まる一次特徴で、画素の並び方(空間的な関係)は見ていません。

テクスチャ:同じ平均でも違う「きめ」

平均が同じでも、画素の並び方が違えば「きめ(テクスチャ)」が違います。滑らかな領域と、細かくざらついた領域は、平均も標準偏差も似ていて、テクスチャで初めて区別できることがあります。これを捉える定番が濃度共起行列(GLCM, gray-level co-occurrence matrix)です。ある向きに隣り合う画素対の濃度の組み合わせを数え、その分布から Haralick 特徴を導きます。

  • コントラスト:隣接画素の値の差の二乗の期待値。ざらついた領域で大きい。
  • 均質性(homogeneity):値が近い画素対に大きい重み。滑らかな領域で大きい。
  • エネルギー・エントロピー:共起分布の集中度・乱雑さ。
  • 相関:隣接画素値の線形な相関。
同じ平均・違うテクスチャ滑らかざらつきmean 同じ / texture 違うラジオミクスのパイプラインROI一次統計テクスチャ形状モデル特徴ベクトル → 予測

平均値が同じでテクスチャが異なる領域(左)と、ROI から一次統計・GLCM・形状特徴を算出する処理(右)。

シミュレーション:ROI を置いて測る

平均は同じでテクスチャの違う 2 つの領域を持つファントムに、箱 ROI を置いて測ります。プリセットで「滑らか領域」と「ざらつき領域」を切り替えてください。平均(mean)はほぼ同じなのに、標準偏差や GLCM のコントラスト・均質性がはっきり違うことが分かります。GLCM は画素の並び方(空間的な関係)を見るので、一次統計では捉えられない「きめ」の違いを拾えます。これが、平均だけでは見えない違いをテクスチャで捉えるということです。

ファントムと ROI

WL 0.500 / WW 1.00ドラッグで WL/WW 調整

ROI のヒストグラム

0.30.40.50.60.70.8020406080100120140画素値
平均0.549
標準偏差0.022
エントロピー4.53
コントラスト(GLCM)17.4
均質性(GLCM)0.262

滑らかな領域とざらついた領域に設定した箱形 ROI の特徴量。平均値が近い場合でも、標準偏差、GLCM コントラスト、均質性には差が生じる。

形状特徴とラジオミクス

領域の形も特徴になります。面積・体積、周囲長・表面積、円形度(3D では球形度)、コンパクトさなどです。円形度は 4π面積/周囲長24\pi\cdot\text{面積}/\text{周囲長}^2 で、円で 1、細長いほど小さくなります。腫瘍の輪郭がいびつなほど、こうした形状特徴は「複雑」を示します。

ラジオミクス(radiomics)は、一次統計・テクスチャ・形状の特徴を数百から数千まとめて取り出し、機械学習にかけて、予後や遺伝子型、治療反応を予測しようとする分野です。第7章の非破壊検査で寸法や欠陥を数値化したのと同じ発想を、医用画像に広げたものといえます。

ラジオミクスの落とし穴

特徴量は、撮影条件・再構成法・ボクセルサイズ・ROI の描き方に敏感で、装置や施設が違うと値がぶれます。特徴の数が症例数より多くなりがちで、過学習と偽の相関も起きやすい。再現性と標準化(IBSI などの取り組み)、独立データでの検証が、ラジオミクスを臨床で使ううえの鍵です。数値化は強力ですが、その数値が何にどれだけ依存しているかを知っておく必要があります。

教材全体のまとめ

本教材では、X 線 CT の測定と再構成を中心に、線積分、サイノグラム、解析的再構成、逐次近似、線量と画質、アーチファクト、深層学習、スペクトラル CT を扱いました。さらに、MRI、核医学、トモシンセシス、光音響トモグラフィ、電子線トモグラフィ、位相コントラスト CT について、測定原理と再構成法を比較しました。画像処理編では、再構成した画像の表示、強調、領域分割、位置合わせ、定量化を扱いました。

これらの技術は、物理量を測定し、限られた測定データから画像を再構成し、得られた画像を目的に応じて処理する、という三段階に整理できます。装置、対象のスケール、測定する物理量が異なっても、フーリエ変換、最適化、正則化、統計モデル、機械学習などの方法は共通して利用されます。

参考文献

このページの内容