CT Lab

第26章 画像の表示と強調

本章では、ウィンドウ処理、ヒストグラム平坦化、ガンマ補正、MPR・MIP による画像表示を扱います。

ここから画像処理編です。ここまでの各編は、測定から画像を復元する「再構成」を扱ってきました。再構成が終われば、そこには 1 枚の画像、あるいは 1 つのボリュームがあります。画像処理編は、その先を扱います。得られた画像を、見て、整えて、測る。診断や計測につなげるための後処理です。装置やモダリティが違っても、この下流の処理はほとんど共通です。最初のこの章は、まず「見る」ための処理から始めます。

CT 値とウィンドウ処理

CT の画素値は Hounsfield 値(HU)で、水を 0、空気を −1000 に定めた物理的なスケールです。骨は +1000 を超え、脂肪は −100 前後、軟部組織どうしは数十 HU の差しかありません。全体のレンジは 2000 以上あるのに、ディスプレイが一度に区別できる階調は限られ、人間の目もそれほど多くの濃淡を見分けられません。そこで、見たい組織のあるレンジだけを切り出して黒から白へ割り当てます。これがウィンドウ処理です。

ウィンドウ幅 WW\text{WW} とウィンドウレベル WL\text{WL} を決めると、表示値は

display(v)=clamp ⁣(v(WLWW/2)WW, 0, 1)\text{display}(v) = \operatorname{clamp}\!\left(\frac{v - (\text{WL} - \text{WW}/2)}{\text{WW}},\ 0,\ 1\right)

で決まります。[WLWW/2, WL+WW/2][\text{WL}-\text{WW}/2,\ \text{WL}+\text{WW}/2] の外は黒(0)か白(1)に飽和します。窓を狭くするほど転送の傾きが急になり、その狭いレンジのコントラストが強調されます。同じ生データでも、軟部組織窓(WL 40 / WW 400)と骨窓(WL 500 / WW 2000)、肺窓(WL −600 / WW 1500)では、まったく違う情報が見えます。ウィンドウ処理は元データを変えず、表示だけを変える操作である点が重要です。

ウィンドウ転送関数HU表示値WWWL01MPR / MIP体積データMPR最大値投影max

ウィンドウ処理の転送関数(左)と MPR・MIP(右)。WL・WW が HU 値から表示値への写像を決め、MPR と MIP は体積データから断面像と最大値投影像を生成する。

シミュレーション:ウィンドウで見える組織が変わる

代表的な組織を並べた HU ファントムを、WL/WW で表示します。プリセット(軟部・骨・肺・脳)を切り替えるか、スライダーを動かしてください。中央のヒストグラムには、どの HU がどの灰色に写像されるかを示す転送曲線を重ねてあります。窓の外に外れた組織は黒か白につぶれて区別できなくなります。右は、いまの窓の中でヒストグラム平坦化をかけた強調像です。

表示画像(WL/WW)

WL 0.500 / WW 1.00ドラッグで WL/WW 調整

ヒストグラムと転送曲線

0200400600800010002000300040005000600070008000CT 値 (HU)
ヒストグラム転送曲線

ヒストグラム平坦化

WL 0.500 / WW 1.00ドラッグで WL/WW 調整

HU ファントムのウィンドウ表示、転送曲線を重ねたヒストグラム、ヒストグラム平坦化像。WL・WW の設定により、表示される HU 範囲と組織コントラストが変化する。

ヒストグラムによる強調

画像のヒストグラムは、どの明るさの画素がどれだけあるかの分布です。コントラストが低い画像は、ヒストグラムが狭い範囲に固まっています。ヒストグラム平坦化は、累積分布関数(CDF)で画素値を写像し、使われている階調を全域に広げてコントラストを引き上げます。ガンマ補正 out=inγ\text{out}=\text{in}^{\gamma} は、γ<1\gamma<1 で暗部を、γ>1\gamma>1 で明部を持ち上げ、階調の配り方を非線形に変えます。これらは表示のための強調で、元の定量値(HU)を保ちたい計測とは目的が違うことに注意します。第13章で見た深層学習による画質改善も、広い意味ではこの強調の系譜にありますが、あちらはノイズの統計を学習して除く点が異なります。

ボリュームを見る:MPR と MIP

CT が撮るのは 1 枚の断面ではなく、多数の薄いスライスを積み重ねたボリュームです。これを見る代表的な方法が 2 つあります。多断面再構成(MPR, multiplanar reformation)は、積み重ねた体積を任意の平面(軸位・冠状・矢状、あるいは斜め)で切り直して表示します。最大値投影(MIP, maximum intensity projection)は、視線方向の最大値を 1 枚に落とし、造影された血管のような高信号の構造を奥行きをまたいで一望させます。どちらも再構成した体積データがあって初めて可能になる、表示の工夫です。

この章の要点

CT 値(HU)は広いレンジを持つので、ウィンドウ処理(WL/WW)で見たいレンジだけを黒から白へ割り当てて表示します。窓の取り方で見える組織が変わり、これは元データを変えない表示操作です。ヒストグラム平坦化やガンマ補正はコントラストの配り方を変える強調で、MPR と MIP は体積データを見るための再構成表示です。ここまでが「画像を見る」ための処理でした。次章からは、ノイズを整えるデノイズ、構造を切り出すセグメンテーション、画像どうしを重ねるレジストレーション、そして測るための定量化へ進みます。

参考文献

  • Kalender WA. Computed Tomography: Fundamentals, System Technology, Image Quality, Applications, 3rd ed. Publicis (2011) — HU とウィンドウ処理。
  • Gonzalez RC, Woods RE. Digital Image Processing, 4th ed. Pearson (2018) — ヒストグラム平坦化・ガンマ・強調の標準的教科書。
  • Fishman EK et al. Volume Rendering versus Maximum Intensity Projection in CT Angiography. RadioGraphics 26, 905–922 (2006).

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