CT Lab

第23章 光音響トモグラフィ

本章では、光音響効果による信号生成と、円形 Radon 変換を用いた画像再構成を説明します。

これまでのトモグラフィは、体の外から放射線を当てて透過を測る(CT)か、体内のトレーサから出る放射線を測る(PET/SPECT)ものでした。光音響トモグラフィ(PAT, photoacoustic tomography)はそのどちらとも違います。光を当てて体内に音を生み、その音を聴いて画像にします。二つの物理をまたぐこの方式は、測定の幾何そのものが CT と変わり、再構成が「直線」から「円弧」へと変わります。

光音響効果

短いパルスのレーザ光を組織に当てると、光をよく吸う分子(血液中のヘモグロビン、メラニンなど)が瞬間的に温まります。温まれば膨張し、膨張すれば圧力波、すなわち超音波が生まれます。これが光音響効果です。生じた超音波は組織の中を伝わり、被写体を囲む超音波検出器に届きます。

超音波検出器パルスレーザ光吸収体超音波光 → 熱膨張 → 音

光音響信号の生成と検出。パルス光を吸収した組織が熱膨張によって超音波を発生し、周囲の検出器がその信号を測定する。

この方式は、光の高い吸収コントラストと、超音波の比較的高い深達性を組み合わせたものです。光吸収は、酸素化・脱酸素化ヘモグロビンの違いなど、分子組成に関する情報を含みますが、光は組織中で強く散乱します。一方、超音波は光より散乱が少ないため、光吸収によって生じた圧力波を組織外で検出できます。

測るのは円に沿った積分

再構成の観点で決定的なのは、測定信号が何の積分になっているかです。ある検出器を考えます。時刻 tt に届く信号は、音速を cc として、その検出器から半径 r=ctr = ct の位置で生じた音波です。2 次元で考えれば、検出器を中心とする半径 rr の円周上にあった音源すべてが、同じ時刻に重なって届きます。つまり時系列信号は、検出器を中心とする同心円に沿った音源の積分になっています。

g(d,t)    xd=ctp0(x)dlg(\mathbf{d}, t) \;\propto\; \int_{|\mathbf{x} - \mathbf{d}| = ct} p_0(\mathbf{x})\, dl

CT の測定が直線に沿った線積分(ラドン変換)だったのに対し、光音響は円弧に沿った積分です。これを円形ラドン変換(circular Radon transform、球面平均変換の 2 次元版)と呼びます。

CT(直線)直線に沿った積分光音響(円弧)検出器r = c·t

CT の直線積分・直線逆投影(左)と、光音響の円積分・円弧逆投影(右)。光音響では検出器を中心とする半径 r = ct の円に沿って値を加算する。

直線逆投影と円弧逆投影

CT の逆投影では、測定値をレイの直線に沿って画像へ加算します(第3章)。光音響の逆投影では、検出器を中心とする同心円に沿って値を加算します。各検出器の時系列信号を対応する半径の円弧へ加算すると、音源の位置で多数の円弧が交わります。この方法がユニバーサル逆投影(universal back-projection, Xu & Wang 2005)です。第3章の SBP と同様に、単純な円弧逆投影にはぼけが残るため、時間微分フィルタによる補正が必要です。

シミュレーション:円形ラドン変換とユニバーサル逆投影

血管を模した音源に対し、全周に配置した検出器の時系列信号を円形 Radon 変換で生成します。その信号を各検出器を中心とする同心円に沿って逆投影すると、血管像が再構成されます。検出器を配置する弧を狭めると、円弧状のストリークが背景に残り、血管がぼけます。特に、検出器群から見て横向きの構造は信号が届きにくいため、早く失われます。これは第22章の限定角度と同様に、観測できる方向が限られることで生じる問題です。

真の音源(血管)

WL 0.500 / WW 1.00ドラッグで WL/WW 調整

ユニバーサル逆投影

WL 0.0369 / WW 0.0601ドラッグで WL/WW 調整

弧を狭めると、円弧状のストリークが残って血管がぼやける(限定ビュー)。

血管音源の円形 Radon 変換とユニバーサル逆投影。検出器を配置する弧を狭めると、円弧状のストリークが増え、観測しにくい方向の構造が失われる。

CT との相違点と共通点

光音響は、音源が体内にある点で PET/SPECT に似ています。ただし、PET が直線の LOR に沿った積分を測るのに対し、光音響では円弧に沿った積分を測るため、再構成の幾何は異なります。一方、逆投影、限定ビューによるアーチファクト、圧縮センシングや深層学習による欠損補完など、逆問題として共通する点もあります。

この章の要点

光音響トモグラフィでは、パルス光の吸収によって体内に超音波源を作り、周囲の検出器で信号を測定します。測定信号は検出器を中心とする円に沿った積分(円形 Radon 変換)であり、円弧に沿ったユニバーサル逆投影によって画像を再構成します。CT とは測定する積分の形が異なりますが、限定ビューによる情報不足や、その補完方法には共通点があります。

参考文献

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