CT Lab

第22章 トモシンセシス

本章では、限定角度で取得した投影から生じる深さ方向のぼけと、面内・面外分解能の違いを扱います。

CT 編では、被写体の周囲から 180° 以上の投影を取得する方法を扱いました。一方、乳房、胸部、歯列などの撮影では、装置構成や被写体の配置によって線源を狭い角度範囲でしか動かせない場合があります。本章では、このような限定角度取得が再構成画像に与える影響を扱います。

撮影角度が制限される理由

トモシンセシス(tomosynthesis)は、検出器を固定したまま、線源を狭い弧(典型的には ±15〜25°)だけ動かして撮る方式です。乳房用(DBT, digital breast tomosynthesis)、胸部、歯科パノラマなどで使われています。1 枚の X 線写真(プロジェクション ラジオグラフィ)は角度 1 つ、つまり奥行き情報がまったくありません。トモシンセシスはそこに少しだけ角度を足して、限定的な断層情報を得る中間的な手法です。

フル CT~180°+トモシンセシス固定検出器±25°

フル CT(左)とトモシンセシス(右)の線源軌道。トモシンセシスでは検出器を固定し、線源を約 ±25° の範囲で移動させる。

全周撮影を行わない理由は用途によって異なります。乳房のように被写体が固定されている場合のほか、被ばく、装置寸法、費用、撮影時間を抑える目的で限定角度が選ばれる場合があります。ただし、取得角度の制限は再構成画像の分解能とアーチファクトに影響します。

限定角度による分解能低下

再構成には CT 編と同じ FBP を使用できますが、取得角度が限られるため、限定角度に特有のアーチファクトが現れます。面内(検出器面に平行な方向)の分解能は比較的保たれる一方、面外(奥行き方向)の分解能は低下します。 点状の構造が奥行き方向に伸びて見える現象を、深さぼけと呼びます。

この方向依存性は、第4章の中心断面定理から説明できます。角度 θ\theta の投影は、物体の 2 次元スペクトルにおける、原点を通る 1 本の直線に対応します。全周撮影ではスペクトル全体を取得できますが、限定角度では測定した投影角に対応する範囲しか得られません。未取得の範囲は、フーリエ空間に扇形の空白(missing wedge、欠損くさび)として残ります。

画像空間伸長深さぼけフーリエ空間kxky欠損missing wedge

限定角度取得による深さぼけ(左)と missing wedge(右)。未取得角度に対応する高周波成分が欠けるため、点像が面外方向へ伸びる。

深さぼけと missing wedge の関係

画像空間で点が奥行き方向に伸びることと、フーリエ空間に missing wedge が生じることは対応しています。欠損した領域に対応する方向の高周波成分が失われるため、その方向のエッジがぼけます。トモシンセシスの深さぼけは、この周波数成分の欠損が画像空間に現れたものです。第24章では、電子線トモグラフィにおける 3 次元の missing wedge を扱います。

シミュレーション:限定角度と深さぼけ

格子状に並べた円板を、フル 180° と限定角度 ±半幅 の両方で撮影し、FBP で再構成します。掃引の半幅を小さくすると、限定角度側の円板が縦(面外)方向に伸びます。中央円板の伸長比(面外/面内)から、角度範囲と伸長の関係を数値で確認できます。横(面内)方向の変化が小さいことも比較してください。

真の被写体

WL 0.500 / WW 1.20ドラッグで WL/WW 調整

フル 180°

計算中…

限定角度

計算中…

総開き角40°
中央円板の伸長(面外/面内)

格子状円板のフル 180° 再構成と限定角度再構成。掃引角度を狭めると、面外方向の伸長比が増加する。

臨床で利用される理由

トモシンセシスは面外分解能に制限がありますが、1 枚の X 線写真と比べて組織の重なりを分離しやすいという利点があります。マンモグラフィでは、乳腺組織の重なりによって病変が隠れる組織重畳が問題になります。トモシンセシスでは奥行き方向に複数のスライスを再構成するため、重なりを減らして病変を観察できます。また、一般に全周 CT より少ない線量で撮影できます。

限定角度による欠損を事前知識で補い、画質を改善する研究も進められています。第11章の圧縮センシングや第13章の深層学習は、missing wedge による情報不足を補う方法として応用できます。

この章の要点

トモシンセシスは、検出器を固定し、線源を狭い弧に沿って移動させる限定角度トモグラフィです。取得角度が限られるため、フーリエ空間に missing wedge が残り、主に面外方向の分解能が低下します。一方、1 枚の X 線写真より組織重畳を減らせるため、乳房などの撮影に利用されています。圧縮センシングや深層学習を用いた欠損補完も研究されています。

参考文献

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