CT Lab

第21章 SPECT とコリメータの物理

本章では、SPECT の平行穴コリメータを取り上げ、空間分解能と感度の関係を説明します。

前章では PET と SPECT を並べ、PET が同時計数で方向を決める仕組みを見ました。この章は SPECT に絞ります。SPECT が写す放射能分布の再構成そのものは、CT で作った道具(FBP や第8章の OSEM)にそのまま乗ります。にもかかわらず SPECT に独立した章を割く理由は、その画質がコリメータという一枚の鉛板でほとんど決まってしまうからです。ここには、装置設計の基本的なトレードオフ(分解能と感度は両立しない)が、もっとも素朴なかたちで現れます。

なぜコリメータが要るのか

PET は正反対に飛ぶ 511 keV の光子対を同時計数し、二つの検出点を結ぶ線(LOR)で方向を決めました。SPECT のトレーサ(99m^{99m}Tc など)が出すのは単一のγ線です。相棒の光子がいないので、一本の検出だけでは「どの向きから来たか」が分かりません。

そこで SPECT は、検出器の前に鉛のコリメータを置きます。無数の細い穴が平行に開いた板で、穴の向きにそろったγ線だけを通し、斜めに入ってきたγ線は穴の壁(隔壁, septa)の鉛に吸収してしまいます。方向を電子的な同時計数ではなく、機械的な吸収で選ぶわけです。この「大半のγ線を捨てて方向を得る」方式が、SPECT の感度を PET より一桁以上低くしている主な原因です。

方向選択の原理検出器Pb線源分解能 ↔ 感度短い穴広い受光角 = 高感度・低分解能長い穴狭い受光角 = 低感度・高分解能

平行穴コリメータによる方向選択(左)と、穴の長さに対する空間分解能・感度の関係(右)。穴を長くすると受光角は狭くなり、分解能は向上するが感度は低下する。

分解能は距離とともに悪化する

平行穴コリメータの幾何分解能は、線源が板からどれだけ離れているかで決まります。穴径を dd、穴の有効長を LeffL_\text{eff}、線源からコリメータ面までの距離を zz とすると、点線源のぼけ(半値幅)はおよそ

Rcol  =  d(Leff+z)LeffR_\text{col} \;=\; \frac{d\,(L_\text{eff} + z)}{L_\text{eff}}

です。z=0z=0(板に密着)なら Rcol=dR_\text{col}=d、穴径そのものです。線源が離れるほど、一つの穴が受け入れる角度の広がりぶんだけ像がぼけ、RcolR_\text{col}zz に対して線形に増えていきます。CT の焦点ぼけと違い、拡大ではなく単純な劣化です。だから SPECT では検出器を体にできるだけ近づけて回します。

患者に近づけるのは分解能のため

SPECT のガンマカメラが体の輪郭をなぞるように非円形軌道で回るのは、zz を小さく保って RcolR_\text{col} を稼ぐためです。距離が 5 cm 増えるだけで分解能は目に見えて悪化します。

検出器自身にも固有の分解能 RintR_\text{int}(結晶と位置演算に由来)があり、系全体の分解能はこの二つを二乗和平方根で合成します。

Rsys  =  Rcol2+Rint2R_\text{sys} \;=\; \sqrt{R_\text{col}^2 + R_\text{int}^2}

近距離では RintR_\text{int} も効きますが、少し離れると RcolR_\text{col} が支配的になります。これが、SPECT の画質はコリメータで決まると言われる理由です。

分解能を上げると感度が落ちる

では穴を細く長くして RcolR_\text{col} をどんどん小さくすればよいかというと、そうはいきません。穴を細く長くするほど、受け入れられるγ線の立体角が狭まり、検出できる本数(すなわち感度、幾何効率)が落ちます。効率はおよそ

g    (KdLeff) ⁣2 ⁣(dd+t) ⁣2g \;\approx\; \left(\frac{K\,d}{L_\text{eff}}\right)^{\!2}\!\left(\frac{d}{d+t}\right)^{\!2}

で、tt は隔壁厚、KK は穴形状の定数(六角穴で約 0.26)です。効率は (d/Leff)2(d/L_\text{eff})^2 に比例するので、分解能を上げようと LeffL_\text{eff} を倍にすると感度は 1/4 に落ちます。しかも効率は距離 zz にほとんど依存しません(離れると一つの穴には届きにくくなるが、見える穴の数が増えて相殺する)。分解能だけが距離で悪化し、感度は据え置き、というのが平行穴の性格です。

感度が落ちれば、同じ時間で集まる計数が減ります。放射計数はポアソン統計なので、計数が少ないほど像はざらつきます。つまり高分解能コリメータは「鋭いがノイジー」、高感度コリメータは「滑らかだがぼける」。臨床では用途に応じて低エネルギー高分解能(LEHR)型と高感度型を使い分けます。

シミュレーション:鋭さとノイズを同時に動かす

ホットスポットと近接した二本の線源を持つファントムを、システム分解能でぼかし、感度に比例した計数のポアソンノイズを乗せて表示します。穴の長さ LeffL_\text{eff} を伸ばすと RsysR_\text{sys} は小さくなって二本の線源が分離できるようになりますが、相対感度が下がって像はざらつきます。線源距離 zz を大きくすると、感度はそのままに分解能だけが悪化していく様子も確かめてください。右のグラフは、いまのコリメータの分解能が距離とともに線形に悪化することを示しています。

真の分布

WL 0.500 / WW 1.20ドラッグで WL/WW 調整

SPECT 像(ぼけ+ノイズ)

WL 0.500 / WW 1.20ドラッグで WL/WW 調整

分解能 vs 距離

050100150200250051015202530線源距離 z (mm)系分解能 (mm)
系分解能 R_sys6.5 mm
相対感度100%

平行穴コリメータの穴長 Leff と線源距離 z に対する、システム分解能、相対感度、ポアソンノイズの変化。穴を長くすると分解能は向上し、感度は低下する。

再構成そのものは CT と同じ

コリメータで光子の方向を選択すると、各角度の投影をサイノグラムとして取得できます。その後の再構成は CT と共通する部分が多く、実際には第8章で扱った OSEM に減弱補正や分解能補正を組み込んだ反復法が用いられます。SPECT に固有なのは単一光子の到来方向を選択する測定過程であり、投影から画像を求める逆問題は CT と同様に定式化できます。

参考文献

  • Cherry SR, Sorenson JA, Phelps ME. Physics in Nuclear Medicine, 4th ed. Elsevier (2012) — コリメータの分解能・感度式の標準的導出。
  • Anger HO. Scintillation Camera. Review of Scientific Instruments 29, 27–33 (1958) — ガンマカメラの原典。
  • Gunter DL. Collimator characteristics and design. In Nuclear Medicine, Henkin RE et al. (eds.), Mosby (1996).
  • Bruyant PP. Analytic and Iterative Reconstruction Algorithms in SPECT. Journal of Nuclear Medicine 43, 1343–1358 (2002).

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