第3章では,X線CTのシミュレーションを行うために必要な手順とプログラムを紹介します.本節では,シミュレーションで一番最初に必要となる数値ファントムについて述べます.
数値ファントム
X線CTの性能を評価する際に利用されるオブジェクトのことを,ファントム(phantom),またはイメージングファントム(imaging phantom)と呼びます.ファントムは生きている被写体を用意するよりも手軽に入手でき,危険もなく,再現性の高い結果を提供可能であることから,医療イメージングの分野で広く利用されています.ファントムよりもさらに手軽に準備ができるのが,数値ファントム(numerical phantom)です。数値ファントムを用意すれば,被写体やCT装置など,形のあるものを何も用意せず,コンピュータ上でX線CTの撮影実験を行うことができるようになります.
数値ファントムは通常,二次元の画像やバイナリデータ,あるいは三次元のボクセルデータで表現されますが,簡単のため以下では二次元の画像を対象に説明していきます.