1.2 X線CTの物理

本節では、X線CT で用いる物理現象や法則を紹介します。

X線の発生

X線とは、1895年にドイツの物理学者レントゲンが発見した、電子の遷移に起因するとても波長の短い電磁波(1 pm ~ 10 nm)を指します。CT装置の内部には X線発生機構である X線管が内蔵されており、ここから発生した X線を被写体に照射します。

X線管は、電子を発生させるフィラメント、発生した電子を衝突させるターゲット材(一般にタングステン)、そして X線取り出し口のベリリウム窓で構成されています。フィラメントに電圧をかけ、加速した熱電子をターゲット材に衝突させると、光電子の放出によってターゲット材が励起状態(不安定な状態)になります。そして、ターゲット材は安定化(放出された電子の穴を埋める)のために電子を外殻から遷移させ、余ったエネルギーを放出します。この放出されたエネルギーが X線(狭義では特性X線)と呼ばれています。

X線の透過と吸収

発生した X線を物体に照射すると、X線の一部は物体に吸収され、残りは物質を透過します。X線CT では、この透過した X線の強度を検出器で取得し、計算に利用します。

ある単一エネルギーを持つ X線が、厚み \(t\) の物質を透過するとき、入射X線強度 \(I_{\rm in}\)  と透過X線強度 \(I_{\rm out}\) の間には、次のような関係が成り立ちます。

$$ I_{\rm out} = I_{\rm in} \exp(-\mu t) $$

ここで、\(\mu\) は X線吸収係数を表しています(X線吸収係数:物質固有の X線吸収の強さを示すパラメータ)。この関係式は、X線は X線級数係数が高いほど、透過距離が長いほど、指数関数的に減少することを意味しています。また、X線吸収係数は物質の質量吸収係数 \(\mu_M\) と、物質の密度 \(\rho\) を用いて次のように表されます。

$$ I_{\rm out} =  I_{\rm in} \exp(-\mu_1 t_1)\times\exp(-\mu_2 t_2)\times\exp(-\mu_3 t_3) \times … \exp(-\mu_n t_n) \\
=  I_{\rm in} \exp(-\mu_1 t_1 -\mu_2 t_2 -\mu_3 t_3 … -\mu_n t_n) \\
=  I_{\rm in} \exp\left(-\sum_{i=0}^{n}{\mu_i t_i}\right) $$

X線の強度

前項にて、X線の強度は物質の厚みに対して、指数関数的に減少するということを説明しました。しかし、そもそも X線の強度とはどういったものなのか、ピンと来ていないかもしれません。ここでは、X線の強度という物理量について、簡単に説明します。

まず、X線の強さを表す物理量として、エネルギー(波長)強度があります。この2つは混同されることがありますが、意味が全く異なるので注意して下さい。X線のエネルギーは、[eV] (エレクトロンボルト) という単位で表され、これは単純に X線の波長の短さ(振動数の大きさ)を意味するものであり、X線発生時の管電圧やターゲット材によって決定します。エネルギーの強さは、X線の透過のしやすさに影響します。それに対して X線の強度は光子量を意味するものであり、通常は [cps] (count per second : 一秒当たりに検出器に届く光子数) という単位で表されます。管電圧やターゲット材を変更すれば、X線のスペクトルが変化するので、これらは強度にも影響を与えます。一方で、管電流を変更すると X線のエネルギースペクトルは変化せず、強度のみ増減します。一般的には、被写体の物性に適した管電圧を設定した後、管電流の調整によって透過データのコントラストを調整します。

X線CT で収集する透過データは、上述した X線の透過強度の分布であり、生データ(Raw data)と呼ばれています。遮蔽物が少ないほど検出器に到達する X線の強度は高くなるので、生データを画像化すると、空気領域は白くなり、物体がある領域は黒くなります(フィルムを感光させるレントゲン写真とは白黒逆なことに注意)。しかし X線CTでは、この生データをそのまま用いるのではなく、投影データ(Projection data)と呼ばれるデータに修正します。生データだって投影データと呼べるんじゃないか、と思われるかもしれません。仰るとおりです。しかし本サイトでは、画像再構成の手順に明確な説明を付与するため、生データ、投影データをしっかりと区別していきます。次節ではこの投影データについて、説明していきます。

タイトルとURLをコピーしました